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本作はイラクのクルド人自治区で2014年8月3日から2015年11月13日に起きた出来事に着想を得ている。8月3日の夜、IS【イスラミックステート】がイラク北西部のシンジャル山岳地帯の村々に侵攻。シンジャル山脈という天然の要塞に守られ、ヤズディ教という独自の宗教への信仰を守り続ける人々が暮らす地域で、彼らの大量虐殺が奇襲攻撃の目的だった。24時間で50万人の市民が脱出。逃げおくれた人々は殺害されるか、拉致された。やがて、ヤズディ教徒、クルド人武装勢力、クルド自治区政府軍は、抵抗部隊を組織し始め、女性の戦闘員だけで構成された武装部隊も前線に立った。【女性に殺されたら天国へ行けない】と信じるイスラムの戦闘員は、彼女たちを恐れていた。
今年のノーベル平和賞(日本時間11日未明授賞式)を受賞したナディア・ムラドさんは、紛争地域で性暴力の被害に遭った女性の支援と救済に尽力している人権活動家である。イラクのクルド人のなかでもさらに少数派であるヤズディ教徒であり、普通の女性であったナディアさんはある日突然、武装した男たちに襲われた。彼らはISの戦闘員だった。ISに拘束され性暴力を含む悲惨な仕打ちを受けたという。3か月後、ナディアさんは隙を見て逃げ出すことに成功。しかし、既に彼女の家族の多くは亡くなり、運よく生き残った者も、ばらばらに暮らすことを余儀なくされていた。「もう二度と私のような過酷な運命に翻弄される人がいなくなるように」と、彼女はいま活動している。

映画『バハールの涙』の主人公バハールはナディアさんと同じく、ヤズディ教徒。人質にとられた息子を取り戻すため、そして「被害者でいるより戦いたい」という仲間の言葉に動かされ、バハールは女性武装部隊を結成し、最前線に身を投じている。バハールの人物像はエヴァ・ウッソン監督がイラクのクルド人自治区に行き、前線と難民キャンプで取材し、実際にそこで出会った女性たちの証言から構築されたものである。ナディアさんのような壮絶な体験をした女性たちは多く存在する。勇気をもってISに立ち向かう彼女たちの声を、ウッソン監督はバハールを始めとする女性戦闘員たちの姿に込めて描きだした。

一方、女性ジャーナリストのマチルドは、片眼を失明しPTSDを患いながらも世界各地の紛争を報道し続けたメリー・コルヴィンと、ヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者として活動したマーサ・ゲルホーンがモデルになっている。
【世界で最も美しい顔100人】トップ10の常連で『パターソン』『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』の好演が記憶に新しいゴルシフテ・ファラハニと、カンヌ国際映画祭女優賞受賞歴のある演技派エマニュエル・ベルコが、大切なもののために信念をもって紛争の地で戦う女性と、真実を世界に伝える女性を体当たりで演じている。
女弁護士のバハールは愛する夫と息子と幸せに暮らしていた。しかし、ある日クルド人自治区の故郷の町でISの襲撃を受け、平穏な生活は断ち切られてしまう。男性は皆殺され、女性たちは性的奴隷として売買を繰り返され、少年たちはIS戦闘員の育成校に強制的に入れられた。

数か月後、バハールは人質にとられた息子を取り戻すため、そして「被害者でいるより戦いたい」という仲間の言葉に動かされ、女性武装部隊“太陽の女たち”を結成、銃を手に取り、最前線でISと戦う日々を送っていた。同じく小さな娘と離れ、戦地で取材を続ける片眼の戦場記者マチルドの目を通し、再び我が子を抱きしめる日を夢見て、内戦を生き抜くバハールの姿が映し出されていく。